彼が眼鏡を外さない理由




なんかもう家に帰りたくなってきた。

無性に我が家が恋しい。

なんならあのしょうもない兄の家に行ってやったって構わない。

とりあえずこの状況を回避できるのならなんでもいい。そう思う。


…どうしてこうなった。



「とっとと言ってみろよ。ん?」

「───」



いやね、もうね、わたしにどうしろと。

その気がなくとも茫然自失してしまう。無理もないだろう。


わたしの現在地、男の膝の上。

ご丁寧にぎうと後ろから腕のなかに囲われて、である。


お腹の辺りに交差する男の両の腕に、さっきから視線が釘付け。

パリッと糊の効いたシャツからご覧とばかりに覗く淡雪のように真白い腕(かいな)。

筋張ったそこを目で追えば、白魚のように瑞々しい細くて長い綺麗な指。

わたしの語彙が乏しいせいで白い長い綺麗とか新鮮味にかけた言葉しか出てこないが、それでも言おう。言わしてもらおう。

白くて長くて綺麗だ。

一言で言うなら─…きゅん。それに尽きる。