彼が眼鏡を外さない理由




「───」



言いたいことが喉にピタッと張りついたかのような違和感。

二の句が継げずに、しょうもなくもごもごと口を動かしているわたしを、男は無言で見つめている。

ツと気だるげに合わせられるグレーの瞳は、涼やかで艷めかしい。



「──…」



水分を失ってぱさついた口内で、ごくりと緊張感をやり過ごすように嚥下(えんか)をすれば、「…おいおい。お嬢さん、」男はクツリと嫣然(えんぜん)に笑った。



「俺はなにも"愛してる"って言えと言ってるわけじゃないんだ。」


「な、」



なんてことを言いおるのだこの男は…!

空いた口が塞がらないとはこのこと、わたしはぽかんと間抜けにも口を開けて放心してしまう。


ついさっきも I LOVE YOU でわたしをからかったくせにまだ足りないのか…!

正直に言えばわたしはまだそのダメージから立ち直れていない。

そこに、この追撃である。


場違いも甚だしいがもうやめて、わたしののライフはゼロよ! と叫びたくなる。…間違っても叫ばないが。いや実際は思っただけで叫 べ ないのだが。