「こ、これは別に…!」
とっさの一言ならぬ言い訳を考えあぐねるわたしの言葉に「別に?」こてりと小首を傾げる男が可愛い…とか不覚にも思ってしまった。
でもさすがは大人──子どもらしさのなかにも匂いたつような妖艶さが潜んでいる。
しかしなんともまあオウム返しってのがまた無邪気な感じがして乙なものだ。
自分のイメージとかけ離れた振る舞いすらも見事にモノにしてくれる男には毎度のことながら舌を巻くものがある。
以上、つらつらと取り留めのないことを考えているのは──紛れもなくこのわたしの──現実からの逃避行動である。
「別に…その…」
「なんだよ、歯切れわるいなあ」
「わ、わるかったわね!」
「おー、そう思ってんなら早く言え。俺も気は長くないんだ。とっととしろ。」
実際のところ、男の秀麗な顔に浮かべられた薄い笑みは無邪気なんてものではなく邪気に満ち溢れている。
「ほぅら、頑張れお嬢さん。」
邪気だ。間違いようなくそれは邪気である。
わたしは今し方しかと確信した。
あの男の完璧な笑顔の下には悪意という名のドロドロとした真っ黒いものが、それこそジャムのようにぐつぐつと凝縮して煮詰められているのである。

