彼が眼鏡を外さない理由




「…可愛いなあ、お嬢さんは」



わたしが自己嫌悪に陥るこんな時ばかり、しこたま優しい声色で。


わざとであろう。


男にしては長めの、色素の薄いアッシュブロンドの髪が、無防備にさらされたわたしの頬や首筋に触れる。

お互いの吐息を感じるくらいの近距離で、いつの間にか暴かれていた弱点である、耳元で。



「考えてること、わかりやすすぎ」



ぼそっと囁きを落とす。


反射的にピクリと跳ねる肩。

クツクツと満足そうに喉を鳴らす男に、その顔をひと思いに殴りたい衝動に駆られる。


…この確信犯め。