彼が眼鏡を外さない理由




「ん? なんだ今のドキッとしたか?」



そんなわけあるまいとあわてて誤魔化そうたってバレバレで。わたわたと所在なさげに空を掴む手はパシッと男のそれに捕らえられて。「こらこら。はしたないぞ。」濡れた朧月がわたしを射すくめる。


刹那ぴくん、と小さく跳ねてますます赤くなるわたしの顔をしげしげと眺めては「初心(うぶ)だなあ、お嬢さん。」傑作、傑作、とクツクツ身を揺らす。

…この野郎。


反抗心がむくむくと育つのもしかたのないことだと思う。



「…せめて純真って言ってください」

「どっちも似たような意味じゃないか。いちいち気にしなさんな」

「…気になるから言ってるんですけど」

「細かいことは気にしない、気にしない」



ぽすぽす、となだめるように頭の上に置かれた手。

わたしの頭をすっぽりと包み込む大きさとぐ、と首にのしかかる重感に、はっきりした理由もなくただわたしの手とは違うんだなあと思った。


白い細いとばかり思っていたそれは意外にも節くれだっていて、ああちゃんと男のひとの手なんだなあ、って。

漠然と理解すれば即座に真っ赤になっていく顔。熱い。発火しそうだ。