彼が眼鏡を外さない理由




「…あのですねえ、」



むうっと大きな飴玉を口に含んだ子どもよろしく膨れるわたしのほっぺたに、目ざとく気づいた男がフっとそれまでのからかうような笑顔を引っこめる――。

そして。



「あんまし怒るな。可愛くなんぞ。」



ぷすっと。いたずらに人差し指をわたしのほっぺたに差し入れてきた。

そこには欠片の躊躇いも見られなかった。思ったら即行動。そんな態度の模範解答のようだった。

それこそバースデーケーキにロウソクをさすときのほうがまだ緊張感があるような気がする。



「っ、 なにするんですか。」



なんてことをしてくれるんですか。

ずささっと緊急避難的に距離をとったわたしに、「…ガス抜き?」なんてことないとばかりに男はこてり、小首を傾げて言った。

さらりと流れたアッシュブロンドに、わたしの心臓がどくりと揺れる。


…やめてほしい。

心臓にわるいんだ、ほんとうに。

ぎうって、身体のど真ん中を鷲掴みされたみたいで、苦しい。そこから歪むようにぴりぴりと甘い痺れが走って、脳みそがぐにゃり、変になる。

この感覚、未だに慣れなくて、男といればそれこそ発作のように頻発してみせるけど、一向に耐性はできてくれない。


心臓が掴まれているのか、まるで肺が圧迫されたようにほんとう、一瞬息ができなくなる。

その反動なのかなんなのか、決まって直後は目の下の辺りが赤く熱をもつから困る。