彼が眼鏡を外さない理由




「黙って聞いてりゃ随分な言い草じゃねェの。」



クスリ、"たまらない"とばかりに笑みを漏らした男。

吐息まじりの笑いは足の先から頭のてっぺんまで、ぶるりとわたしの身を震わせた。


細められたグレーの瞳が、くすぐったい。



「ま、これでお嬢さんが普段俺をどう思ってるかわかったな?」


「…だってほんとうのことじゃん。」


「はは、そんなに俺にひどくされたいか? お嬢さん。今なら可愛がってやるぞ?」


「!」


「なーんてな、冗談、冗談。いちいち真に受けなさんな。」



じゃあいきなり肉食獣のようにギラリと目の色を変えるのをやめてほしい。

そうとは言えなくて、わたしはじとりと睨むことで男に無言の抗議をした。


…わかれ、これで。

伊達にエリートやってるわけじゃないんだろ。わたしの心情くらい察してくれ。そのむだな洞察力を今発揮しなくていつ発揮するんだ。


どうやらそれさえも男の感興をそそったようで「あー可愛い、可愛い。ほんと、可愛い。」クックと男は笑った。


…なにがそんなにけったいなんだか。

理解しかねる。

顔のいいやつは凡人とは違う脳のつくりをしているのだろうか。

平凡顔が無様な顔晒してんじゃねェよ、って感じだろうか。


だとしたらヤな感じだな。


そんなおざなりに可愛い連呼されたって嬉しくない。むしろむかむかと腹が立つ。腹の虫の居所がわるい。男のせいだ。


…この性悪め。