彼が眼鏡を外さない理由




「まあまあ。そんな真っ赤な顔して膨れ面されてもなあ? 説得力がないってもんだ。」



くつくつ、喉を鳴らして笑う。独特な笑い方だ。余裕があるっていえば聞こえはいいが、とことんひとを馬鹿にしていると思う。「う、」とわたしは返す言葉も為すすべもなく押し黙った。

口は災いの元。

かつてこれほどまでにその意味を痛感したことがあったろうか。いや、ない。

ひしひしと後悔に苛まれた。猛烈に痛烈に後悔の波が押し寄せてくる。ああどうしてこうもからかいのネタを供給してしまうかなあわたしって!



「今時女子コーセーにそんな熱烈な告白されたらオッサン冥利(みょうり)に尽きるってもんだな。」



スッと白魚のように瑞々しい手をこめかみから後頭部へと泳がせ、幕が開くように露(あらわ)になったグレーの瞳で、にやりと笑った。



「…ありがとなあ? お嬢さん。」



フッと。飽くまでもからかうような、笑み。悪戯な嘲笑。



「───…むかつく。」



綺麗に歪められた薄い唇に、噛みついてやりたくなった。