彼が眼鏡を外さない理由




「これまた随分とお熱い告白じゃないか。ん? 漱石大先生もびっくりだなあ、これは。」



にやり。水を得た魚のように嬉々とした表情。こちらの反応を窺うようにグレーの瞳はきらりと煌めいた。「、な…!」相反してわたしは陸に打ち上げられた魚のようにびちびちと呼吸困難。きょどきょどと視線は宙を彷徨(さまよ)う。


最悪だ。誰がなんと言おうと最悪である。

普段むだに意地を張って生きているからか、こういう風に攻め込まれると悲しいくらいわたしは弱い。

虚勢を張ろうにも張るだけの虚勢がない。

がらがらと音を立ててわたしのなかのなにかが崩れていく。


これが惚れた弱みというのなら大層可愛いものだ。

意地張って見栄を張りたがるのはなにも年頃の男子だけじゃない。



「別にそんなつもりじゃ…、」



なかったのに。

無意識のうちに反論の言葉が口をついてでる。が、ちょっと待てよと思い直す。

ここでムキになって真面目に言ってもどうせ本人には伝わらないのだ。というか仮に伝わっていてもなかったこととして華麗にスルーされるのだ。


それならば、と。

羞恥心をかなぐり捨ててじとーっとした目つきで睨み上げる。

ほう、と興味深そうにわたしを見つめる一対の瞳がそこにあった。