彼が眼鏡を外さない理由




…そう返してくるか。


想像の斜め上を行く現実に、わたしは返事に窮してしまった。

全然掴めない。わたしには。

眼鏡を掛けたポーカーフェイスは崩せない。

わたしには、そのレンズ越しの分厚い仮面を見破れない。

意地悪な男はわたしに手の内を見せてなんかくれない。


…この場合返事はとくに求められてはいないのだろう。


男はあくまでこの状況を楽しむつもりだ。あたふたと狼狽するわたしを眺めて楽しむだけだ。それだけだ。まあなんと悪趣味な。でもそれが男という人間だ。

自分が楽しむためならばなんでもするだろう。凡人には手に入れることのできないものを両手いっぱいに抱えた男は、どうやら暇をも持て余しているらしい。

盗み見る男の目は、ご機嫌での喉をぐるぐると鳴らている猫みたいにスウッと細められていた。


沈黙を生み出して、手ずからわたしをそのなかに閉じ込めて、存分にいたぶる。

ころころとサイコロのようにその手のひらのうえで転がされる。

人形劇の操り人形のように、ままよと嘲弄される。


自らは徹底的に第三者――傍観者に徹するのだ。

ご丁寧に自分がその黒幕であれことにはしっかりと目を瞑って、である。


…おちゃらけているつもりなのだろうか。まったく、この男は。

似合わないことこの上ない。笑止千万(しょうしせんばん)だ。


なぜここまで突っ込んできたのか。掘り下げて、きたのか。

そしてどこまでこれを引っ張るつもりなのか。


ハッと鼻で笑って一蹴しさえすれば済んだ話なのに。どうしてこうもどうでもいいことばかり突っかかってくるのだろうか。質がわるすぎる。

肝心なことには一切触れてこないというのに。…狡い。


わたしは心のなかでチッと小さく舌打ちをした。