彼が眼鏡を外さない理由




ちなみに。

自己保身のため念のため言わせてもらうが"月が綺麗ですね"という発言はわたしが単に純粋な心からそう思ったからの発言だ。

そこに他意はない─…否、なかった、と主張したい。



「───」



いきり立った眼で凝望するわたしをちらと一瞥(いちべつ)するなり、男はハアと嘆息する。


…ああ、またため息。

わたしは一体いかほどばかりのため息をこの男に吐かせれば済むのかと、先を思えばおのずと気が沈んでいく。

たぶん、この男と付き合い続けるかぎりずっとだろう。


男にとってわたしは、いつまでも"ガキ"なままだろうから。

自分とは対極を行くわたしの子どもっぽい振る舞いに、きっと呆れて、そしてその度に憤る自分をなだめるようにため息を吐くのだ。

大人は滅多に自分の感情を表に出さないもの。

涼しい顔して、なんてことないさと閑麗に立ち居振る舞うのだ。