彼が眼鏡を外さない理由




交わる視線に、妙な熱が入り混じっている気がした。

異物混入。直ちに除去せよ、なんて。ストレートに大脳から命令がくだるわけもなく。わたしは高熱にうかされた病人よろしくぽけーと無心で見入る。


月を見上げるかのように、ほんの少しだけ、目を眇(すが)めて。

どこを見ているのか定かではないが目線がひたひたとこちら側に注がれているのを意識するほどに、そこから発熱していくようだった。


からだが、疼(うず)く。


いつ見てもグレーの瞳は綺麗だ。

底が見えなくて誘いこまれそうになる。でも、同時にその表面に触れる前からぴしゃんと拒絶されているようにも思える。


夜空に浮かぶ孤高の月は、ひどく物哀しい。

どことなく、そう感じさせる目を男はしていた。


ゆらゆらと妖しげに揺れる暗灰色の水面にそそられて、そろり、そろりと近づく。

触れたい、近づきたい。


綺麗な水面にわたしを映せば、なにかが変わるだろうか。

変わって、くれるだろうか。