彼が眼鏡を外さない理由




それならばわたしの言動も、眼前で繰り広げられる男の言行も、今夜これから起こるであろうことも。

すべて満月の夜がもたらした狂気の沙汰(さた)、ということで解決願おうか。



ぱちり。

形のないなにかに引き合わされるようにして、男とわたしの視線が交差する。


典型的な日本人であるわたしの黒目がちな瞳と、異国情緒溢れる男のグレーの瞳。

平凡なものしか持ち合わせていないという点においては自己嫌悪だが、昔男が"お嬢さんの目はとくに真っ黒でいいな"って褒めてくれたから実のところそこまで嫌悪の対象ではない。

多少ひとより黒目の面積が大きいが、そこを評価してもらえたのだからなにも言うまい。


それに、真っ黒なわたしの瞳を小夜(さよ)と見立てれば、わたしのだいすきなグレーの瞳はまさに夜のビロードに包まれた朧月。


その旨を"素敵だね"、とはにかみながら伝えれば男は"ようわからんな"と即座に切って捨てたが、にわかにスウッと細められた瞳はおそらく満更でもなかったのかな、とわたしは解釈するようにしている──というよりも勝手に解釈させてもらった。

(もしかしたら"このガキは随分と可愛い比喩使ってくれんじゃねェか"って思ってただけかも知れないけど。)(良いほうを取るに越したことはない。)


"月夜"という熟語があるように、夜と月は切っても切れないもの。

どちらも同時に存在して、どちらかがなければその魅力は半減してしまう。

どこか依存にも似た関係はひどく心惹かれる。

脆いようで、強(したた)かで。


…わたしも、男とそうなれたらいいのに。

夢見ずには、いられない。