彼が眼鏡を外さない理由




…話は変わるが。


満月がとても美しい日は、凶事が起こりやすいと聞いたことがある。

月の光がひとを狂わすとかなんだとか、そんなことを小耳に挟んだこともある。


ルナティック──精神異常、というやつか。


わたしは生命とその行動、月齢との関係性なんて甚(はなは)だ興味がないからなんとも言えないけど(なんだかんだ現時点で喋ってるが)、正確な知識なんて持ち合わせていないから、ただの脳内雑談程度に見てもらえると嬉しい。

たまにあるよね、こう、知識もなにもないくせに小難しいこと考えてよくもわか
らないことをわからないなりに哲学してみたくなるときって。

たぶん不定期のそれが今現在進行形でわたしに訪れている。


わたしがはじめて"月の光がひとを狂わす"──という事実なのか迷信なのか、定かではないが──とにかくそのことを知ったときはちょうど古典を習いはじめたての中学生だったからか、脳裏には平安時代の通い婚が浮かんだものだ。


だって、人目を忍ぶために愛した女のもとから、一晩明かすどころか夜が明けない暗いうちに去らなければならないなんて。

おいおい月さんもっと俺のいいひとと一緒にいさせてくれやって、家路を急ぐ道中夜空に我が物顔で浮かぶ月を見ればそりゃ恨みたくもなるよな、なんて思ったりしたのだが。


…そういえば今日は満月だった。

男の部屋まで来る途中(徒歩15分の微妙な距離である)、やけに今日は夜道が明るいなあと思って空を仰げばぽかりと見事な丸が浮かんでいたのを思い出す。