彼が眼鏡を外さない理由




まあそのおかげでわたしは"ご飯をつくる"という大義名分を得て、うまいことこの部屋に入り浸るということが叶っているのだが。


なんでも家に連れ込む女に家事をやらせると彼女ヅラしてうざったいのだとかなんだとか。

さすがに料理に髪の毛とか爪とかの異物を入れられることはないらしいが、過去にそういうこともなかったわけではないらしい。


女よりも仕事のほうが大事で、媚びへつらってくる女は邪魔。

己の枷にならない割り切った関係を望める女とだけ、一夜限りの逢瀬。


いくら仕事がデキても女関係にだらしないのは"まあ、さすがに生理的欲求には逆らえないよな"ということだそうで。


小さい頃から両親が不仲で、母方のおばあちゃんに面倒を見てもらっていたわたしは、ありがたいことに料理は人並み以上にできるので──その腕を買われたわけだ。


もとはお兄ちゃんの大学時代の先輩で、お兄ちゃんの持っていたわたし手作りのお弁当に興味を示した男が"妹と会わせろ"と言って、それを知らないわたしがお兄ちゃんに"晩ご飯つくって"と呼ばれたお兄ちゃんのアパートで面会したのが最初の出会い。

わたしのつくる所謂(いわゆる)"おふくろの味"がお気に召したらしい男には、それ以降お兄ちゃんを通して幾度もご飯を振舞った。


最悪なことにはわたしが男に懸想しているということが早々に本人にもお兄ちゃんにもバレた挙句、その場で"ガキに食指は動かない"とスッパリ切られ、どうにかして妹の恋を叶えようと暗躍したお兄ちゃんのせいでなぜか男のマンションにご飯を作りに行く羽目になってしまい──

今に至る。