彼が眼鏡を外さない理由




わたしが眉をひそめて不快感を顕(あらわ)にしたからだろう。

男はクツクツと喉を鳴らして「いちいち可愛いなあ。」ぽすん、とわたしの頭に手を置いた。


その重感が心地いいと思う反面、"ガキ"っぽくて可愛いとする男の意図を見抜けないわけではないので、一弾指(いちだんし)の間上擦った胸の鼓動もすぐさま平常値、否それよりもやや低めで動き出す。


きっと男が普段好きこのんで侍らしているキツいメイクと香水をまとった女のひとは、こんな風に男に扱われることはないと、直接聞いたことはないが感覚的にわたしは知っている。

そして、すぐそこにあるクイーンサイズのベッドへと直行するであろうことも。


いったい誰が住むんだよと思わせる駅近くに堂々とそびえ立つ超高層ビルの最上階。

そこにどどーんと居を構える男は言わずと知れた金持ちだ。


見目麗しい将来有望な外資系エリートとして、その名を欲しいままにしている。

会社の内部構造はよく知らないが、以前こそっと隠れて覗きみた名刺(男から預かったスーツポケットに入っていた)には"Vice President"で書いてあった気がする。


仕事が多忙なせいで家に寄りつかないのも知っているし(だからいつまで経ってもモデルルーム同然なのだ)、たまにいると思えばホテル代わりに適当な女とかりそめの恋。

出張もあるせいか必要最小限の荷物しか必要としていないし、お金なら有り余るほどあるくせに、なぜか食べ物には無頓着だ。