彼が眼鏡を外さない理由




無常な願いが聞き入れられるわけもなく、男はじわじわと真綿で首を絞めるように私を追い詰めてくる。



「お嬢さん。」



いざ狩りを楽しまんとする狩人の目だった。

目の前の獲物以外すべてを忘れたような恍惚な表情。


不気味なくらい声色が和らげられている。

通常の3割増くらい甘いのだが、それが逆に怖い──いやな予感がする、と言えばいいのだろうか。



「どうした? いきなり目なんか擦って。

素直になったら眠くなったのか?」



あんまり擦ると赤くなるから程々にしろよ、と続けて、フッと甘さのある笑みをたずさえながら男はこちらの様子を窺ってくる。

くそう、そんなんじゃないってことくらいわかってるくせに。


この確信犯め。

そこまでしてわたしをからかって楽しいか。


恨みがましげに睨めつけるわたしを流し目に見て、「まあまあそんな熱い瞳を向けなさんな。照れるだろう?」全然照れる素振りを見せずに男はクスっと婉美(えんび)に笑った。


…馬鹿にされてる気がするのはわたしだけか。