彼が眼鏡を外さない理由




…ああ。

似合いすぎてて絶句。


わたしの想像力もなかなか捨てたものではない。


なんと幸いなことには、ここが贅をつくした瀟洒(しょうしゃ)な謁見の間ではなくて、モデルルームのように生活感のない無機質な男の自室だということか。

(逆にそれはそれで緊張するのだがまあそれはそれでいいのだ。)


男の服装も黒いカットソーにビンテージもののダメージジーンズという、いたってラフな格好だ。

(なんの変哲もないその風采(ふうさい)がかえって男のために設(しつら)えたかのように似合いすぎていて脅威だというのはまた別の話。)


男が座しているのも豪華絢爛、まさに"煌びやか"の一言につきる玉座──ではなく、そこらへんに売ってるような普通のデスクワークチェア。


であるからにして、明らかに件(くだり)のわたしの妄想はおかしいはずなのだが、どうしてなかなか違和感がない。



「素直になるってのもたまには大切だよなあ? なあ、お嬢さん。」



ご満悦げにニッと笑むそのひとが、王冠を被った高貴なひとに見えるのだ。