彼が眼鏡を外さない理由




…求む、情報。

この状況を打開せよ。


緊急事態。

緊急事態。

エマージェンシー。


脳細胞という兵士たちが謎の侵入者と必死に戦っている。

侵入者を祭りあげようと神経伝達を過密にしている。


ああでも男が考えていることが手に取るようにわかったらわかったでこわい。

もともとない自信が綺麗にさっぱり消え失せそうだ。


正直にいえばどんな顔をしているのか確認するのもこわい。



「ふぅん…」



ようやく男が動き出したかと思えば、値踏みをするかのような視線が無遠慮にわたしに向けられる。

下から上へ。


シャープな顎に指を添えるさまは、まるでどこぞの王様だ。


男が真っ赤な重たいガウンを羽織って、繊細で優美な装飾のされた玉座に鎮座している様子は案外すんなりと想像できた。

きっと今のわたしは奇跡的に王様に謁見を許された一市民にちがいない。

貧相な身なりの一市民を、王様は宝石の散りばめられた肘掛けに優雅にもたれかかって、そうして組んだ長い脚を前に突き出して"面をあげよ"って顎でひとをつかうのだ。