彼が眼鏡を外さない理由




──…静けさがしぃんと鳴り響く。



「───」

「───」



お互いに無言する。

物音ひとつさせない空気がピリピリと肌を攻撃してくる。


あーあ、言っちゃった。

ついに言っちゃった。

わたしは動揺していた。

先ほどの発言をひたすら頭の片隅で反芻しているくらいには動揺していた。


歯止めがきかなくなったというか、血が逆流するような感覚にとっさに口を開かずにはいられなかったというか。

やはりさっきのは失言か、という地点で思考はあちらこちらへと堂々めぐりをしている。

いやでもなんだかんだいって言いたいことをいったのだから別にいいのではないか。男の質問にも答えたわけだし。肯定したし。


──…それじゃあなぜ男はなんにも喋らない?


まだわたしをからかっているのだろうか。からかいは継続中なのだろうか。

単に一瞬恥をかけばいいというのではなくて、長期的な羞恥心との耐久戦を求めらているのか。

だとしたら──云々。


わたしはずっとこんな調子で知的活動を深めているし、ずぶずぶと後悔の波に飲まれているし、男は男でなにを考えているのかまったくわからないしで。

混乱する。

思考回路がまごまごと混雑していく。


わたしの脳内は完全に恐慌状態に陥っていた。