彼が眼鏡を外さない理由




自分でも笑ってしまう。おかしくて。

なりふり構わず真剣になっているわたしが哀れで、滑稽で。


ふと冷静になって鏡に映っている自分を見れば、その情けない顔にはせせら笑うことしかできない。

なんて顔してんのって。

なにかが変わればいいのにって、つい笑ってしまう。



色のないあの瞳に、わたしの色を、わたしの姿を。

少しでも見つけることができるのなら。


縋るように捉えるグレーの瞳はいつもわたしじゃない"なにか"を見つめていて。

どんなにせがんでも、一向にわたしの名前は呼んでくれなくて、"お嬢さん"っていつまでたってもそこらへんの女子と変わらない呼び方をする。


だからわたしも男の名前は口にしない。

最初に言い寄ったのはこっちなんだから、せめて名前くらい。名前くらい、そっちから呼んでもらいたい。



"お嬢さん"なんて、そんな線引きは望んでいない。いらない。