彼が眼鏡を外さない理由




どうせこの男は夢なんか見せてくれないんだから。

自分でフィルターを設定して自分好みの夢を見るしかない。


あの男に対するわたしの想いは、たとえ。

強烈な刷り込みだとしても、それでも構わない。


たとえ一時的なものであろうと、そのひとにとって大切であることには変わりはないのだから。


生まれたての雛鳥がはじめて目にした動くものを追いかけるように。

わたしの視界に初めて入ったのがあの男なら、こんなに幸せなことはない、とわたしは思う。


いつだか男も"お嬢さんは俺が初めて知る男だから執着してるだけだ"という類のこと言っていた。

あのときのわたしはなんにも言い返せなかったが、今なら言える。

そんなことはない、と。


はじめて見る男に対する執着ならば、すぐに目を覚ますか飽きるかなにかで、すでに男の目の前から去っているはずだ。

相手にされないと知りながらも、馬鹿のひとつ覚えみたいにその背中を追いかけたりしないはずだ。


…報われなくて、こんなに惨めな気持ちになるくらいなら。