彼が眼鏡を外さない理由




勇気を、だせ。

意地を見せろ。

女を見せるんだ。


敵前逃亡をはかろうとする弱虫な脱走兵に喝をいれて。

ぽそりと口火を切る。


一度下を向いた視線だって、おもむろに上げていく。

躊躇(ためら)うわたしの心情とシンクロするように、錆びたブリキのおもちゃよろしく。

ぎぎぎ、と首の骨が不協和音を奏でた。



「…してるよ、いつも。

あんたに、欲情してる」



見上げてキッと睨みつけたはずの男の姿は、油膜を張ったかのように霞んで揺れた。


なぜだろう。

なぜなのだろう。


帰するところ、素直に口を割ってしまうのは、わたしが弱いせいなのか。

わたしの意思が貧弱すぎるのか。