彼が眼鏡を外さない理由




ふよふよと男へ差し伸べた手は、その花の顔(かんばせ)にまさに触れんとするおきにパシッと掴まれた。

ビリっと身体じゅうに電気が走ったみたいだった。


須臾(しゅゆ)にして脳裏に浮かび上がったのは、青白い明かりにおびき寄せられてビリリと感電していく愚かな虫の姿だった。


急速に我に返る。

サーっと熱がひいていく。

まるで立ちくらみを起こしたかのように、一瞬なにもかもが無に変わる。


端(はた)なく目をつむる。

開く。


画面いっぱいに映しされるは無言でやさしくわたしを叱るグレーの瞳。



「あ…」



偏向(へんこう)されたわたしの視界で認識するそれは、しっとりとした宵闇のなかに見つける立待月(たちまちづき)のようだった。