うん、聞き間違いであってほしい。




切実にね。




穂見くんを見て目をまるくする私に、現実を見ろとでも言うような言葉が吹っ飛ぶ。




「あぁ、ゴメン。つい出ちまった。もう面倒だからいいか」




えーっと…。




さっきの穂見くんに戻ったような、そうじゃないような…。




…『つい』ってことは、穂見くんにも裏があるのかな…?




それに、もういいか、ってどういうこと!?




……勉強できる人って、誰でも裏表があるの…!?




…だって、舜くんもほんの一瞬、クールで硬派って感じだった。




今じゃ全然だけど…。




折れそうな勢いでシャーペンを握っている私に、穂見くんはニコッと笑う。




「再開しようぜ」




…今までの穂見くんは、「再開しよう」までだったと思う。




でも今まさしく……!




「ぜ」が付いてた!!




ってことはやっぱり…。




半分意気消沈しながらも、私はペラペラと問題集をめくる穂見くんの手が止まらないことを祈った。




さっきの穂見くんのちょっと出た素にはビックリしたけど、もうそれどころじゃない。




穂見くんの手が時々ストップするだけでドキドキする。




…だってこの問題集、全ページ難しいんだもん。




というか簡単なページがない。




「そうだな……ここやるか」




「はーい……」




…何事もなかったように問題集を向けてくる穂見くん。




私もそれに従い、いつもの穂見くんの授業を、フツーに受けた。