「そういえば、悠ちゃんは?」




私は歩きにくい浴衣で、転ばないよう気を付けながら美織ちゃんに聞く。




毎年一緒に行くのに、今年はいない悠ちゃん。




美織ちゃんが何も言わないから、講義かな?とか思ったんだけど…。




美織ちゃんの口から出た言葉は、意外なものだった。




「あ~、本部にいるってさ。なんでも買ってやるから来い!って。慰めてるつもりなのかねっ」




本部?




なんで悠ちゃんが、そんなところに…?




花火を打ち上げる人でも、花火大会の役員でもないのに。




ぱちぱちと瞬きを繰り返す私。




でも美織ちゃんはどこか寂しそうな顔をしていて、それ以上話すのはやめておいた。




…やっぱり、こういう行事は彼氏…。




裕貴くんと来たかったよね。




美織ちゃんの彼氏の裕貴くんは、何かと忙しいからデートとかはあまりできないんだって。




だけど、今日は年に一度の花火大会だよ?




…なんだか隣にいるのが私で、なんか悪いなぁ…。




「な、なんでひなが沈んでんのよ!ヒロの事なら気にしないで?」




少しうつむいて歩くスピードを緩めた私に、美織ちゃんが明るく言ってくれる。




そう言われると、余計に気になっちゃうよ。




やっぱり、電話してもう一回誘ってみたら…?




せっかく年に一度の花火大会、裕貴くんと楽しく過ごしてほしい。




美織ちゃんが憂鬱そうだと、私もつまんないよ…。




顔を上げて「裕貴くんに電話したら?」と言おうとした時、前から「お~い!」と手を振りながら走ってくる人が見えた。