俺の顔色を窺うかのように聞いてきた悠河。




そんな質問、答える気力も出ない。




「……知らね」




それだけ言って、ちょうど目の前に置かれたチューハイを一気に半分ほど飲み干した。




…ひなの家庭教師になってから、悠河に「篠崎、変わったな」って言われたのを思いだす。




悠河に家庭教師の話を持ちかけられたのは、ちょうど4か月ほど前。




世間一般に言うと、夏休みの最後の方。




悠河とは、たまたま同じ学部だっただけで話したことも、名前すらも知らなかった。




…あの日、呼び止められるまでは…。









「篠崎っ!篠崎舜佑っ!!」




大きな声で叫ばれる自分の名前。




大学の講義室の扉の前で、俺は振り返る。




そこには、わりと顔が整っていて、いかにも世間渡りが上手そうなやつがいた。




男に呼び止められることなんて滅多になかった俺は、ヘンな好奇心からそいつの話に耳を傾けたんだ。




…そもそも、そんな好奇心がひなとの再会を実現させたんだけど。




振り返った俺に、そいつは一際デカい声で、今度は自分の名前を叫ぶ。




「俺、山井悠河っつーんだけどさ!ちょっと頼みがあって」




頼み?




頼みごとなんてされたことのなかった俺は、眉間にシワをよせた。