『今日のご予約は…あ、確か…瀬田様だけ?』

記憶を確認するように予約表をめくった。

『はい、諏訪さんの御紹介ですね…』


『へぇ…あちっ‥もぅっ私には熱過ぎ…これ。いつもはライトホットなのに』

口に運ぼうとして火傷する。

『何笑ってるの?!』

『いえ、別に…あ、ただ諏訪様も一緒におみえになるなら、嬉しいなって‥だって美人だし‥見応えあるし』

いつもはクールな感じの漣が実は猫舌だったり、たまに嫌味を口にするような人間臭い部分がある。今更ながら気付くと知らずに笑みが零れた

『ふん‥まぁ、確かにそうね…でもその一緒にみえる方は美人かどうか分からないけどね。』

『辛辣だね…』

後ろから聞こえてきた低いトーンの声に思わず手に持ったカップを落としそうになった。

『誰かと思った…お隣のマスターさん。おはようございます。』

隣りの建物のカフェのオーナー秋斗が立っている。

『おっと…危なかったじゃない。漣ちゃんは結構そそっかしいからね‥気をつけてちょうだい』

長身で、ほんの少し影の在る感じが人気なのだが、実は女性には興味はない。桜はその元モデルだという経歴から何故カフェなんて…と不思議に思うのだが、彼はいつも謎に包まれている。

『あ!秋斗さんっさっきは美味しいコーヒー有り難うございました』

桜の顔は名前の通りみるみる内に桜色に変わる。

気付きながら、漣は溜め息をついた。

『諏訪様、今日いらっしゃるんですよ。秋斗さんに以前御紹介して頂いてから定期的に来てくれて‥』

子犬のように黒目がちの目を丸くして…きっと尻尾がついていたら思い切り千切れんばかりに振ってるんだろうな…と気付かれないように笑った。

『じゃ、コーヒーカップ‥下げるわね。』

いつもと違う感じに桜は気付く。

『あれ?今日は《あいつ》いないんですか?火曜は午後から授業だって‥朝のコーヒーもいつもはあいつなのに‥』

『《あいつ》?あぁ、洸?‥ふふ…今日は遅刻ね。後でおしおきしなきゃね…』

桜と秋斗の楽しそうなやり取りを横目に見ながら、開店準備を進める。

『じゃ、いくわ。あ、諏訪様にはくれぐれも宜しくね。』

『はい!』

桜は元気に見送った。