君の檻から出されたなら。




あまり色のない、嘘みたいに綺麗な空。

周りの白や灰、緑の色が余計にそれを際立てる。


これまで見ていたものとは比べようにならないくらいに大きく、そして透き通っていた。



――…これが
俺の望んだ景色なんだろうか。





まだ明けきらない空が広がる朝には
スーツの大人や制服の若者。



太陽が高く明るい空になる頃には
猫や老夫婦。



そして、

暗くなる空を迎えると
また人通りが増えた。




そこでやっと、自分が1日中ここから動かなかったことに気づく。



「………」


これまで、
動かないことが普通だった。

周りにも動くものはなかった。



空を見上げる俺の後ろに
本を読み続ける紫羽がいて。



しかし、今はこんなにも
周りに置いていかれている。


俺の存在が見えていないかのように
周りには誰もいない。

ここに留まる人は1人だっていなかった。



まるで、何もかも分からなかったあの時のように。