「バ、バイトを辞めた!?お前、いったいどうして…」

「まぁまぁ!いいじゃない!エナミールは納得してくれたよ。バンドのライブもしばらく休止ってことでいいって…。」


何てことだ。いつも冷静でいられるはずの僕だが、今正直頭が混乱している。
翔が僕の知らない所で勝手にバイトを辞めて、そして勝手にバンド活動も休止させていた。

しかも、榎波店長も承諾だなんて…。
って!ちょっと待て!バンドのボーカルの僕に何も言わずにって…。


「おい!翔!僕は何も聞いてない!ふざけるのもたいがいにしろよ!」


僕は自分勝手すぎる翔に怒りが抑えきれず叫んだ。


「も~。そんなに怒らないでよぉ。」

「これが怒らずにどうしろって言うんだよ!?」

「あはっ。だからしばらくの間だけだって。我慢してよぉ。」

「はぁ?我慢だと?お前さぁ…。」


本当にコイツには怒る気力が失せてくる。


「ねぇ~!俺どうしても実家に帰りたいんだー。だから、おーねーがーい?」


翔は両手を合わせて僕に頭を下げる。
だったら僕に一言くらい言うくらいしろよ。


「…って。お前、僕が行くなって言っても行くつもりだろ?」

「うん。そうだよ。」


翔が即答した瞬間、僕の額の血管が浮き出る。


「だったら人に頭下げるんじゃない!翔、僕はやっぱり納得いかない!」

僕は窓の枠をバンっと音を立てて叩く。


「あははは!彼方。朝からそんなに怒ると長生きできないよ~。」

再び怒る僕をスルーするように翔は単車のエンジンをかけた。


「うるさい!!」

「じゃあ。俺は行くね~。」


翔はそう言って単車のグリップを握る。