台風はゆっくりと去っていくのか。

そして急速に去っていくのか。
予測がつかないのが特徴だ。

そして、僕のすぐ近くにいた台風も。
去るときは予測がつかなかった。



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僕が朝起きると窓の外から車か何かのエンジン音が聞こえてきた。
僕はまだ眠たい身体を起こし、部屋の窓を開けた。

こんな朝からエンジン音。なんとなく気になった。

窓を開けると、


「あ、彼方。おっはよー。」


単車にまたがり、ヘルメットをかぶる翔が二階の窓から顏を出した僕を見上げた。


「ああ。…おはよう。」


翔のやつ。こんな朝早くから出かけるのか?
…っていうか。あの引きこもりの翔が外に…?こんなの初めてだな。

今まで翔がバイト以外で外に出るとこなんて僕は見たことがなかった


「なんだよ。こんな朝早くから。どこか行くのか?」


気になる。やっぱりあの翔が外に出かけるなんて…。


「ああ。ちょっとこれから妹に会いに行くんだ。」

「妹?」


翔に妹がいたなんて初耳だ。
…まぁ、よく考えたら翔の家族構成とか…あまりよく知らないんだったな。

基本的に翔の今までの生きてきた経歴には興味がなかった僕。
今になって気になるなんて複雑な気分だ。


「ふ~ん。そうなの。気をつけて行けよ。」


だいたいこいついつも僕の単車の後ろばっか乗っていたけど、運転できるのか?
…というか。寮の裏にずっとおいてあった置き去りの古い単車は翔の物だったのか。

そんなことを考えていると、


「じゃあ!彼方。俺しばらく寮には戻らないと思うからヨロシク!」

「は?しばらくって…お前、バイトは?」

「あ~~…バイト?バイトは昨日で辞めた。」

「はぁ?」


僕は耳を疑った。
だってそんなこと聞いてないって。