そして、僕を待っていたのは…。


「はぁーい。彼方!元気~?」


黒髪に真っ赤なグロス輝く唇にサングラス…。


僕はその女性を知っている。
…って、知っているっていうか!


「母さん…。どうしてここに…?」


そう、その女性は紛れもない僕の母親だ。
映画製作会社に勤め、今では世界を駆け巡る映画監督の母。

そんな母がなぜ蘭藤荘にやって来たのだろうか。

母は僕が中学にあがる時に仕事の都合で海外に長い間行かなくてはならなくなった。
僕はそんな母に着いていくことをやめ、幼なじみの観奈の家で生活を始めた。

それからは母にはほとんど会っていない。

観奈の家を出る前に直接会うことが出来なかったから、電話で『一人暮らしを始める』ことを話をしたら、


『あっ、そうなの~?じゃあ彼方の好きなようにしなさいな。』


母親らしくないとても軽い返事だったし。


はぁ…。そんな母さんが今さら何の用があって僕に会いに来たんだろう。