「ねぇ、彼方君。もしアタシが今ここにあるお酒全部飲んだら、お店終った後付き合ってよ?」


彼女は常連客の一人、たしか『若菜』さんだっけ?
ここにあるお酒とはバーカウンターに並ぶ、ウォッカ系の強めのアルコールのお酒たち。

この子、毎度よく飲むな。

僕はシェイカーを布巾で拭きながらそんな事を考えている。
でも、こんなにこの子はお酒は強いほうじゃない。
この酒全て飲めたら大したものだ。


「いいですよ。」
出来るわけがない。


そう思った僕は自信ありげに返事をした。


「本当?じゃあ、約束ね!」


若菜さんはそう言うと目の前のお酒をひとグラスづつ飲み始める。

僕は若菜さんが飲み切れるわけがないと思いながらその場を眺めていたわけだが、


…嘘だろ?


僕の自信をひっくり返すように若菜さんは目の前のお酒を全て飲み干した。


「ふふっ!どう?全部飲んだわよ~。…約束、忘れないでよねぇ。」

若菜さんはそう言うと真っ赤な顏をしてバーカウンターに乗せた腕に顏を埋めて寝てしま
った。


「……。」


ライブの音が響いてるはずなのに僕の中では辺りが静まり返った気がした。


…ま、まじかよ。
僕、本当に若菜さんとこの後遊びにいかなきゃいけないのか??
う…でも約束しちゃったしな。