1993年春…
「はーい!!皆さん静かにして下さーい!今から名前を呼ばれた人から順に廊下側から座って下さいね!」
担任の甲高い声が教室に響きわたる。
「ねぇ前後誰になるかな?あと隣の男子も気になるよねっ!!」
「まぁ麻弥と、あたしが離れる事だけは確実だわね。さすがに坂田と松田じゃね。」
「やっぱ、そうだよね」
教室の後ろで名前を呼ばれるのを待っている私の横で坂田麻弥が膨れっ面になっている。麻弥とは今までもクラスは違ったが昨年から始めた部活で仲良くなった。麻弥は人懐っこく誰からも好かれるような子だ。頭もいいし運動もできる。親は会社経営。つまり社長令嬢だ。前に一度だけ麻弥の家に遊びに行った事があった。子供ながらにカルチャーショックというものを受けた。玄関はいってすぐの横一面の壁が水槽だった。うちにも水槽がある。直径50センチほどの水槽に金魚を3匹飼っている。私はそれが当たり前と思っていた。しかし麻弥の家の壁水槽には熱帯魚という色とりどりの小さい魚が数えきれないほど優雅に泳いでいた。金太、金子、金平と3匹の金魚に名前をつけて可愛がっている自分がすごく惨めになった。あれ以来、麻弥の家には行ってない。