受験も終わって学校には卒業式にしか行かないので、毎日修二のお見舞いに行った。修二のお見舞いに行っている間は、優人の育児は母親に任せるしかなかったが、母親も快く引き受けてくれた。
ある日、優人もベビーカーに乗せて修二のお見舞いに連れていった。
「優人、修二パパですよ」優人のことを抱っこして修二の膝の上に乗せた。
「優人、可愛いな。こんなに優人は成長したのか、赤ちゃんの成長は本当に早いな」
「修二はずっと修二のことを見てなかったからね。だって、こんなに美人の私を、一回は捨てた男ですからね」彩香は嫌みを込めて言った。
「だから、それは彩香のことを思って……」
「分かってるって。修二は優しいからね」そう言って、彩香は修二の頬にキスをした。
 それからも一日欠かさず私は修二の隣に寄り添い、修二のことを看病した。
 修二は毎日抗がん剤治療や放射線治療を行っていたため、強い副作用が出ていた。それでも修二は痛みに耐え続け、私の前では笑顔でい続けてくれていた。
「修二。今日は果物とカメラ買ってきたよ。これから毎日二人だけの思い出を、このカメラに収めようよ」
「彩香、気が利くじゃん。じゃあ、早速写真撮ろうぜ」私は修二の隣に座ると、一枚写真を撮った。
「これからは、沢山写真撮ろうね。何年か先に、こんな時もあったなって思い出すためにもさ」
私は微笑みながら、修二の目をまっすぐ見て言った。
「そうだな。俺は彩香と優人のためにも、絶対病気を治さないとダメだな」
「そうだよ。修二がいなくなったら、優人にパパがいなくなってしまう。それは絶対許さないからね」
 私がそう言うと、修二の頬を軽く抓った。修二は痛がった顔をしたが、その顔が可愛くて私は微笑んだ。
 そんなある日、私は修二用の毛糸の帽子を織りはじめた。
「彩香、何作ってるの?」
「修二のために、毛糸の帽子作ってるの。病院にいる間は帽子を被っていれば良いでしょ?」
「副作用で髪も抜け始めてるし、帽子があったら助かると思ってたんだ。それが彩香の手作りだったら、尚更嬉しいな」
 修二は照れながら微笑んだ。私は今まであまり手作りのものをあげたことがなかったから、すごい嬉しそうだった。