僕は「はい」とだけ言う。単純明解な言葉でいい。それ以上はいらない。
「私、何であなたが怖かったかわかった気がするわ」
「何でですか?」
「私たち、似たもの同士なのよ。世の中の不条理に納得が出来ないくせに、それを隠して抗ってる。表に出さないことほど性質の悪いことはないわ。自己満足で終わってしまう。世界を変えようとしない人間はそれで終わりなのよ。私たちはそういう人種なの」
「あなたはそれだけわかっているのに、変わろうとしないんですか?」
「あなたとは違うの。私は変わっちゃいけないのよ。パパが残した業を背負わなくちゃいけないから。そのためには鈍感なくらいがちょうどいいの。自己満足の世界に浸って、自分で自分を癒してあげなくちゃいけないの。でもあなたは違うわ。あなたは何も始まっていないもの。ヨーイドンのピストルは、まだ鳴っていないのよ」
僕はまた、外を見る。圧倒的な存在感は影を潜め、薄明るい闇の静寂が辺りを包んでいる。緑すら、巻き込んで。時計を見ると、もう八時に程近い。
何も始まっていない。少なくとも、僕と恵美の間には。僕は大きく息を吐く。そう、何も始まってなんかいない。
「すいません。初対面なのに」
「言ったでしょ?私とあなたはすごく似てるわ。だから言ってしまったのよ。自分の分身にすべてを吐き出したと思ってくれていいわ。それに、元々私がデリカシーのないこと言ったからよ。ごめんなさいね」
「帰ります」
僕は立ち上がろうとして、見事に失敗する。神目薫はそれを見て盛大に、高飛車に笑う。僕は再挑戦して、ようやく立ち上がる。そして、玄関に向かった。
「ねえ」
後ろから神目薫の声がする。僕は振り返らない。
「あなた名前は?」
「足立。足立司です」
僕は振り返らずに言った。
「じゃあね。司」
僕は玄関のドアを勢いよく開けて、飛び出した。
「私、何であなたが怖かったかわかった気がするわ」
「何でですか?」
「私たち、似たもの同士なのよ。世の中の不条理に納得が出来ないくせに、それを隠して抗ってる。表に出さないことほど性質の悪いことはないわ。自己満足で終わってしまう。世界を変えようとしない人間はそれで終わりなのよ。私たちはそういう人種なの」
「あなたはそれだけわかっているのに、変わろうとしないんですか?」
「あなたとは違うの。私は変わっちゃいけないのよ。パパが残した業を背負わなくちゃいけないから。そのためには鈍感なくらいがちょうどいいの。自己満足の世界に浸って、自分で自分を癒してあげなくちゃいけないの。でもあなたは違うわ。あなたは何も始まっていないもの。ヨーイドンのピストルは、まだ鳴っていないのよ」
僕はまた、外を見る。圧倒的な存在感は影を潜め、薄明るい闇の静寂が辺りを包んでいる。緑すら、巻き込んで。時計を見ると、もう八時に程近い。
何も始まっていない。少なくとも、僕と恵美の間には。僕は大きく息を吐く。そう、何も始まってなんかいない。
「すいません。初対面なのに」
「言ったでしょ?私とあなたはすごく似てるわ。だから言ってしまったのよ。自分の分身にすべてを吐き出したと思ってくれていいわ。それに、元々私がデリカシーのないこと言ったからよ。ごめんなさいね」
「帰ります」
僕は立ち上がろうとして、見事に失敗する。神目薫はそれを見て盛大に、高飛車に笑う。僕は再挑戦して、ようやく立ち上がる。そして、玄関に向かった。
「ねえ」
後ろから神目薫の声がする。僕は振り返らない。
「あなた名前は?」
「足立。足立司です」
僕は振り返らずに言った。
「じゃあね。司」
僕は玄関のドアを勢いよく開けて、飛び出した。


