天体観測

「気が済みましたか?」

僕は自分が出来る最大限の優しい声で言った。ほんの少し前に出会ったばかりだが、神目薫を宥めるにはこれが一番適切なんだとわかっている。

「ええ」

「今度は僕の番です」

神目薫はひどく疲れた様子で、「そうね」と言った。

罪を吐き出し、膿がなくなった姿。身に纏う虚勢も、擬勢もない姿。僕はふいにその姿が本当の神目薫なんだと思った。

「何が望みなの?」

「あなたは知らないでしょうけど、二年前に起こった事故のことで調べたいことがあるんです」

「それと私、何の関係があるの?」

「あなたじゃありません。あなたの父親、神目貞照です」

「パパが?」

「はい。事故の第一発見者なんです」

「それはいいとして、何を調べるのよ?あくまでパパは第一発見者なんでしょ?調べようがないじゃない」

「僕は収賄事件とこの事故には何らかの関連があると思っています」

神目薫は明らかな不快の表情を見せて、言った。

「あなたは収賄のことを聞きに来たんじゃないって言ったわ」

「そうです。僕は収賄のことを聞きに来たわけじゃありません。あくまで事故のことを聞きに来たんです」

神目薫は片足で地団駄を踏んで、言った。

「家宅捜索されて、この家には何も残ってないわ」

「そんなことありません」

「何もないわよ」

「あなたが残っています」