天体観測

「髪?私の?」

「そうです」

「そんなの証拠にならないわ」

「あなたにしてみれば、たしかにそうかもしれません。けれど、僕らにしてみれば一度あなたの髪を見て、忘れろという方が無理なんです。あなたの髪はそれほど美しいんですよ」

僕は紅潮しそうになるのをグッと我慢した。神目薫は爪を噛みはじめた。

「止めたほうがいいですよ。あまりやりすぎると爪の形状が変わってしまう」

「うるさいわね。放っておいてちょうだい」

追い詰められた中世ヨーロッパの魔女は、きっとこんな風に捕まっていったに違いない。自分の行動がさらに状況を悪化させているのに気付いていないのだろうか。

「これ以上のことを僕の口から聞きたいですか?あなたは気付いているはずですよ。もう言い逃れできないことに」

僕は無気力な目で神目薫を見る。これで決まってくれなくては、困る。

神目薫は壊れたように笑いだした。まるで刑事ドラマのような展開は何故か僕を寂寞の思いにさせた。

「あなたって何なの?急に家に来たと思ったら、ずけずけとものを言って」

「僕もわかりません」

「年齢的に見ても私より年下よね。そんな子にまさか見られてたなんて。しかも大阪の子って。もう笑うしかないわ」

「まさか、だから戻ってきたんですか?ここなら誰も知らないと思って」

「そうよ。まあ、昔から悪事はバレるものよね」

どこかで聞いたことのある台詞だった。それも、ごく最近。何処でだったかを考えて、発泡酒を呷っている母さんを思い出した。

「ええ」と、僕はわざと暗く言った。

神目薫は僕を遠い目で見る。それは、過去に犯した過ちを振り返っているのだろうか。

そして彼女は、僕の隣に両膝を抱えて座り、言った。

「売春なんてしなきゃよかった」