まあ、確かに人に見えないこともない。

しかし、こんなところに人なんているのだろうか?
この広い海の真ん中で、船にも乗らず。

「見張り台ぃー」

船員が上に声を張り上げる。
穏やかな海と柔らかな日差しの中でまどろんでいた見張りは、弾かれるように目覚めた。

「へぇっ!なんざんしょ?」

「…おめぇ、また寝やがったな!」

「そんなことありゃしやせん」

といいつつ、口元のよだれを薄汚れた服の裾でぬぐう。

「まあ、いい。右舷10度のほう見てくれ!」

「なんかありやすか?」

「新入りが人に見えるってよ」