「あ、もう送迎がきてるな。」

杉山は支店の前に自転車を停め、バッグをおろした。

運転手と話しをしていた田代がこちらに気付き、近寄ってきた。

「おはようございます、杉山さん。今日もいい天気ですね。」

そう言うと、田代は杉山のバッグを小型のバスの後部座席に放り込んだ。

「杉山さん、実は現場に向かう際の注意点が一つあるんですよ。」

田代は黒く細長い布と、ヘッドフォンを杉山に渡した。

「? これはなんです?」

「それを目と耳に付けてください。」

「えっ!?」

すると運転手が声をかけた。

「杉山さん、規則ですから。」

「規則っていわれても…。」

田代は、ためらう杉山から布を奪い取り、無理矢理杉山の目を隠した。

抵抗していた杉山も断念し、自分でやると言って目隠しとヘッドフォンを装着した。

田代に支えてもらい、バスの助手席に座り込んだ。

視界は遮られ、耳にはもはや騒音と化した大音量の音楽が流れていた。

運転手は杉山の肩を叩いた。

「えっ?なんですか?」

杉山はヘッドフォンを外した。

「5時間我慢してください。」

「…マジ?」

バスは現場に向かい出発した。