「待て」



襖が勢いよく開いたと思えば、黒いスーツを着た細身の男の人が立っていた。



「誰だ!」

「何者だ!?」



広間にいた多くの人がざわめき出すのを気にも止めないで、男の人は黒川の元へと足を進める。



「…おにい、ちゃん?」



その人は私の大好きな人と重なって、驚きが隠せなかった。


一瞬、私を見て微笑んだと思えばすぐに殺気の溢れる雰囲気に戻った。




「黒川さん。俺、利子の分まできっちり返したはずなんですけどね」



黒川に話しながらもどんどん近づいていく男の人から黒川を守るように部下と思われる人が2人、立ち塞がる。



「何の事だ?というか。お前、誰だ?」



その奥から返事を返す黒川に男の人は、堂々と答えた。



「俺は藤堂陸。そこにいる瑠榎の兄貴だ」



…やっぱり、お兄ちゃんだった。

お兄ちゃんが来たと分かると、気が抜けてその場に座り込んだ。




「足りないとおっしゃるなら、これで文句はないでしょう?」



持っていたアタッシュケースの中から札束が落とされる。

驚いたように目を見開く黒川を見下すように見るお兄ちゃん。



「お前、何者だ」



初めて聞く少し動揺したような黒川の声に、ああ、と呟いてからお兄ちゃんの顔が笑顔に変わった。



「最近のことなんで知らなかったですかね」