連れてこられたのは広い広間だった。
そこには多くの人がいて、驚いた顔をした早川さんが視界の端に映った。
「さて。瑠榎ちゃん」
1つだけ明らかに質の違う座布団があり、そこに悠々と腰掛けた黒川が私の名前を呼ぶ。
「そろそろ我慢の限界なんだよね」
「え…?」
「お兄さん、お金返すの遅くてさ〜、おじさんもう待てないんだよ」
困った、とでも言うようなジェスチャーをしてみせる。
「だから。お兄さんに色々してもらってもいいんだけど、その前に瑠榎ちゃんにも選択肢をあげようと思って」
光のない目が私を捉え、黒川の指が私を指す。
「瑠榎ちゃんが俺の部下になるなら、お兄さんを解放してあげてもいいよ」
「…え」
口元だけに笑みを浮かべて、笑っていない目が私を動けなくする。
本能でこれは飲んではいけない条件だってわかる。
逃げないと、と思うのに体が思ったように動かない。
黒蝶なんて、歴代最強なんて言われても、こいつの前では意味をなさない。
「瑠榎ちゃんが俺の言うことを聞く、って条件を飲むだけでお兄さんは解放されるんだよ?」
お兄ちゃんを護るには、この選択肢しかない?
「どうする?」
こいつと喧嘩しても相手は武器がある。
負ける。
なら…。