「マリア、ブレザー」 この人は、ただ、マリア、と繰り返す。 私にとっても、坊ちゃんにとっても 「マリア」は人の名前ではなく、一種の呪文になってしまった。 「どうぞ」 そしてこの「どうぞ」も、ただの返事。 いつまでこんなことを続ければいいのか、と内心思う。 けれど、この関係を終わらせられる権利は私にはない。 「マリア、」 呼ばれる限り、私はどこへでも駆けつけることくらいしかできないのだから。