家に帰ると、ちょうどお風呂場から出てきた奏ちゃんと鉢合わせた。



「おかえり、律」

「ただいま、奏ちゃん。そこのパン屋さんで奏ちゃんの好きなやついっぱい買ってきたから、一緒に食べよ」

「どうしたの? 珍しい」

「そう? 普通でしょ」


私はリビングに行き、テーブルに、今しがた買ってきたパンを広げた。

奏ちゃんはふたり分のアイスコーヒーを作ってくれた。



「いただきまーす」


手を合わせて言った私を、奏ちゃんは苦笑いのままに見た。



「どうしたの?」

「昔のこと思い出した」

「……昔のこと?」

「まだ父さんも母さんもいて、毎日楽しかった頃のこと。どんなに忙しくても朝食だけはみんなで、って決まりがあって」

「そうだったね」

「だけど、4人掛けの椅子から、ひとり減って、ふたり減って。俺と律だけになっちゃったなぁ、って」


奏ちゃんの瞳は、徐々に悲しみの色が濃くなっていく。

私はその目が見られなかった。



「いつかは律もその席からいなくなるんじゃないかって思ったら」


奏ちゃんはそこで言葉を切る。



「またその話?」


私は奏ちゃんが淹れてくれたアイスコーヒーを口に含む。

カラン、と、グラスの中の氷が溶けて。



「昨日の夜、俺ももちゃんに会ったよ。『今日は律と約束してない』ってももちゃん言ってた」


すっ、と熱が引いた。