私は堪らず「ごめん」と言って席を立った。

そして急いでトイレの個室にこもり、喉の奥まで指を突っ込んだ。


嘔吐しながら、息苦しさに生理的な涙が溢れる。


吐きながら、私は声を殺して泣いた。

何なのかわからない涙が、溢れてばかりで止まらなかった。




どうして私はこんな風なのだろうかと、悲しさや悔しさが濁流となって私の心の中で渦をなす。




席に戻ったのはどれくらいが経った頃だったろうか。

私は放心状態だった。


百花はすでに食事を終えていた。



「どうしたの?」

「え? あ、えっと、電話かかってきてね、話してたら長くなっちゃってさ、遅くなってごめんね」


早口に嘘を並べ立てる私。

空笑いする自分の顔が、虚しくグラスに映っている。


百花はまた、「ふうん」と返してくるだけだった。



私は居心地の悪さから、「もう帰ろうよ」と言って伝票を持った。



「律」


百花はそんな私を制して見上げ、



「奏くん、今わりとやばいみたいみたいなんだけど、あんた心配じゃないの?」

「え?」


思わず困惑の声が漏れた。

百花は私たちの事情を知らないとはいえ、咎めるような目で見られた。


『やばい』って、どういう意味で?


だけど、聞くべきか、聞かざるべきかもわからないから、私は目を逸らす。

聞けば私はきっと奏ちゃんに会わなければと思うはずだ、けれどまだ、会う勇気はないままで。