お母さんが出て行って、お父さんが死んでから、ずっと。

私は、何に対しても好き以上の感情を持てないから、だからきっとどこかおかしいのだと思う。


まるでそこだけ削ぎ落とされてしまったかのように。



「私はキョウや奏ちゃんみたいな気持ちになれない」


キョウは何も言わなかった。


苦しかった。

息が詰まるほど苦しかった。



「何度も何度も思ったの。キョウのことを愛してあげなきゃ、って。でも、できなかった」


言っていて、言い訳めいているなと思う。



「ごめんなさい」


もう何度目の謝罪なのか、何に対しての謝罪なのかもわからない。

ぼたり、ぼたり、と涙が落ちる。


私は堪らず、涙を拭って立ち上がった。



「キョウはもう私のことなんか忘れて。別の人と、別のところでちゃんとした幸せを手にして」

「何それ」

「私たちがどれだけ一緒にいたって、幸せにはなれないんだから」


暗闇の中、キョウは震えた息を吐いて顔を覆った。

私はそれを振り払うように部屋を出た。


嘘でもキョウと一緒にいたいと言えば、きっとキョウはそうしてくれたはずだ。


でももう、私はキョウの気持ちを利用することはできなかった。

何もかもを誤魔化してまで一緒にいることなど、できるはずもなかった。



月が、赤く染まって見えた気がした。