「確かに、奏から奪ってやりたかったって意味では同じなのかもしれないけど。でも俺は結局、そんな勇気なかったから」


心が、鷲掴まれたように痛かった。

私なんかが泣いていいわけでもないのに、涙だけは止まらない。



「3年前、親父が死んで全部失って途方に暮れてた時に、るりちゃんの地元のこの街に誘われて。でも来てみたら、奏も律もいて、やっぱり俺はこの運命からは逃れられないのかな、って」

「………」

「奏はどこにいてもスポットライトを浴びてた。日陰でしか生きられない俺とは逆。だから3年経ってやっと、もう考えるのは止めようって思い始めてたのに」

「………」

「なのに、あの日、何の因果なのか、馬鹿共が人違いで律のこと拉致ってきて。すげぇビビった。本気でどうしようってテンパった」

「やっぱりあの日、キョウが私を家まで運んでくれたのね」


キョウは「そうだよ」とうなづきながら、



「律との接点はあれだけにしようって思った。もう二度と律の前に現れなければ終わりなんだ、って」

「………」

「けど、気付いたら俺、律にまた声掛けてた。関われば関わるほど後で傷つけるだけなのに、って、そうわかってても自分の中に望みが生まれて」

「………」

「たとえ、奏のことしか頭になかったとしても、それでもいいから、って。一瞬だとしても、律が俺のこと考えててくれるなら、って」


最後の方は消え入りそうな声だった。

キョウの想いが痛いほどに胸に刺さって。



「ごめんなさい」


だけど、やっぱり言えたのはそれだけだった。



私が何を言ったところで、それはきっと言い訳にしかならないだろうから。

私は、どんなに頑張ったって、キョウの想いには答えられない。


キョウも、奏ちゃんも、好きだけど、それは決して愛ではなくて。



「私ね、おかしいの。キョウも、奏ちゃんも、愛せない。誰のことも愛してあげられないの」