奏ちゃんは、「嫌だ」、「嫌だ」と繰り返しながら暴れる私を見て、ふっ、と体を弛緩させると、そのままこうべを垂らした。



「何で律なんか好きになったんだろう」


弱々しく震えた声で言った奏ちゃんは、顔を覆った。



「血が繋がってなくても、妹なのに。なのに、どうしてこんなに苦しい道しか選べないんだろう」


奏ちゃんは泣いていたのかもしれない。

でも、私も泣いていたから、嗚咽しか出せなかった。


奏ちゃんは充血した目で私を見る。



「律に嫌われたら、どうやって生きていけばいいの」


ほとんど懇願に近いような台詞を呟き、奏ちゃんは、私の体を抱き締める。


奏ちゃんのぬくもりが悲しかった。

痛々しくて、だから胸が締め付けられて。



「でもね、私、奏ちゃんと血が繋がってないってわかっても、奏ちゃんのことを兄以上には思えないよ」


私の19年間は、いつも“兄である奏ちゃん”が一緒だった。

大好きな奏ちゃんは、でも兄としてでしかない。


血が繋がっているかどうかなんて関係ない。



奏ちゃんは、私から体を離し、ふらふらとその場に倒れた。



「わかってたよ。律がそう言うってわかってたから、俺はずっと“いいお兄ちゃん”の殻から抜け出せなかった」

「………」

「でもさ、俺が“いいお兄ちゃん”を演じれば演じるほど、律は俺を“優しいお兄ちゃん”として慕うんだから。嫌になるよね」


フローリングの冷たさが、布越しに背中から伝わる。

床に倒れ込んだままの私たち。