「奏ちゃんは本当に、川瀬社長を?」


聞くことには勇気が必要だった。

だけども奏ちゃんはふっと自嘲気味に笑い、



「何が悪いの? すべてはあいつが元凶なんだから、当然の報いをしてやったまでじゃないか」

「でも!」


でも、だからって、それは許されることじゃない。

反論しようとする私を見た奏ちゃんは、カッと目を見開き、



「まさか、律まで俺を悪者扱いってわけ?」

「……それ、は……」

「勝手に産ませて、人に預けて育てさせて、でもまた必要になったら呼び戻そうとして。俺は被害者だよ?」

「………」

「俺の存在意義って何? 何でそんな俺が責められなきゃならないの?」


ぐっ、とその手に力がこもる。

私は今ここで奏ちゃんに殺されるんじゃないかと思った。


キョウの顔さえ上手く思い出せないほど、奏ちゃんの狂気に満ちた顔が私の瞳の中を占める。


遠のく意識の中で、考えてみる。

奏ちゃんが過ごしてきた、これまでの22年間を。



偽物の家族の中で、一体どんな想いだったのだろう、と。



刹那、奏ちゃんはその手に込めていた力を急に緩めた。

私はその場に倒れてごほごほと咳き込みながら、肩で荒い息をする。


奏ちゃんは、そんな私に馬乗った。



「キョウなんかに奪われるくらいなら、さっさとこんな関係、壊してればよかったんだ」


言った奏ちゃんは、乱暴に私を支配しようとする。


私は反射的に抵抗した。

足をバタつかせ、手を払い、全身で奏ちゃんを拒んだ。