「咲絢ちゃん、部屋は片付きそう?」


『あ、はい。荷物はそんなに多くないのですぐ終わると思います。』



ある程度片付けを終えた頃、晩ごはんを食べるためにリビングに行くと高杉君のお父さんが声をかけてくれる。


年の離れた男の人と話すことって祖父や学校の先生以外なかなかないから少し緊張する。


「咲絢、そんなにかしこまらなくていいのに」


「ふふ、咲絢ちゃんも緊張してるのよ」


「え、俺全然そんな事ないよ。ね、お母さん」



ねーってお母さんと高杉君が顔を合わせる。


違和感と共に、高杉君の順応力に驚いた


もうすでにお母さんって呼んでるなんて



「はい、じゃあ咲絢。お父さんって言ってみて」


『え…えっと、お、お…』

「無理強いは良くないだろ。気にしなくていいよ咲絢ちゃん」



高杉君が手をマイクみたいにして私に向けてくる。


精一杯言ってみようと試みたけど、生まれて今まで誰かをお父さんなんて声に出して呼んだことがなくて、言葉が続かない。


そこを高杉君のお父さんが助けてくれた。



やっぱり思った通り優しい人。


ふわりと笑って頭を撫でてくれるその姿は、高杉君にそっくりだった。



こころなしかドキドキしてしまう


高杉君も二十年後こんな風になるのかな、なんて



生まれて初めての『家族』での団らん。


こんなにも温かいモノだったんだね。



なれるのかな、本当の『家族』に。